岡崎久彦『繁栄と衰退と』文藝春秋 pp.144-145

ネーデルラントがなぜヨーロッパの倉庫となったかといえば、まずその地理的条件である。ネーデルラントの東方の海であるバルティック海は、ヨーロッパの南部がオットマン・トルコに抑えられて以来、中欧、東欧、ロシア全域に及ぶ極めて大きな市場と生産地を背後に持っていた大通商路貿易地域であった。
 また、ヨーロッパ中部はライン河がその貿易の幹線であった。したがってライン河の河口に位置し、バルティック海、大西洋に面しているネーデルラントが地理的に最も適していて、トルコの進出による地中海貿易の衰退とともに、ヨーロッパの中継貿易の中心となった。
 フランスの主要輸出品であるワインも、収穫し醸造した頃にはバルティック海は氷結してしまうので、ネーデルラントの倉庫にまず送り、雪解けを待って中欧、東欧に輸出された。また、バルティック沿岸の主な産品である木材と穀物のようなかさばる商品(バルキー・トレイド)の貿易には、そのための専用に造られ、船の容積に較べて乗員の数が少なくてすむネーデルラントの船が適していて、英国船のような多目的船はコストで太刀打ち出来なかった。

繁栄と衰退と―オランダ史に日本が見える (文春文庫)

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