松田壽男『アジアの歴史』岩波現代文庫 pp.19-20

 この「モザイックのアジア」をどのようにまとめて把握するかの問題に、私は多年取組んできた。その一試案として、昭和12年に公表したのが「三風土帯説」つまり「三つのアジア」にほかならない。それは、アジア大陸を、湿潤地帯、亜湿潤地帯および乾燥地帯に三分して考えるもので、それぞれ湿潤アジア(Wet Asia)・亜湿潤アジア(Semi-wet Asia)・乾燥アジア(Dry Asia)と略称している。いうまでもなく湿潤アジアは、地理学でいう東アジアと南アジアにあたる。また亜湿潤アジアは北アジア、乾燥アジアは中央アジアおよび西アジアに相当する。それならば、これは地理的区分ではないか、といわれるかもしれない。しかしこれは風土的にアジアを三分したものであって、仮に乾・湿を基準として命名しただけであり、かつ三つの区域からスタートしている五つの主要な生活型(生活様式)を歴史の基盤としているのである。

アジアの歴史―東西交渉からみた前近代の世界像 (岩波現代文庫)

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