こんにちオランダと風車は切りはなせぬものとされているが、事実そのつながりは古く、かつ深い。ヨーロッパの各地で風車が使われるようになったのは12世紀以来のことで、地中海沿岸から次第に北に広まり、13世紀には南西風の常に強いオランダで使われるようになった。最初のうちは小麦の粉ひきや、時には油しぼりに使われていたが、14世紀になると沼地、とくに泥炭を掘ったあとの排水動力に使われ、さらに16世紀以後には風車のメカニズムの改良によって一層広範囲の動力として、米の脱穀、煙草の製造、羊毛の圧縮、大麻(帆綱の原料となる)をたたくこと、製材、タンニン、染料、セメントの製造など、あらゆる工業の動力として用いられた。これが貿易の急速な発達と共にもたらされる各種の原料や半製品を消化し、さらに新しい需要を生み出した。そればかりではない。風のエネルギーを動力に変える風車のメカニズムは帆船と似たところがあり、風車の羽根に張る帆布、方向固定のための索具や滑車、動力伝達のための心棒や歯車はまた帆船のための不可欠の部品でもあったのである。したがってこの二つは互いに密接な関連を保ちながら発達したのであり、当時のオランダの科学技術の高い水準を示す指標となっていた。
オランダ東インド会社 (講談社学術文庫)