曽村保信『地政学入門』中公新書 p.144

 当時両米大陸における旧スペイン領の復活が、政治的にも経済的にも好ましくないという点では、英米両国の利害関係はまさに一致していた。なぜならば、独立後まだ間もないアメリカ合衆国としては、強力なフランスおよびスペインの勢力と国境を接するよりも、むしろ地域的に細分された多くの独立共和国と交渉をもつことのほうが、はるかにやり易かったからである。しかしながら、その反面、英国はまた米国の大きな商売敵でもあり、さらに米国人のあいだでは、つい最近まで戦争の相手だった英国にたいする警戒心が簡単に消え去るものではなかった。そこで、この米国の孤立主義の傾向を代弁した国務長官のジョン・クィンシー・アダムズは、共同行動に反対して、以後米国は西半球の利益の保護者になるという、一方的な宣言を出すことにした。これが、前記のモンロー声明の背後の動機である。

地政学入門―外交戦略の政治学 (中公新書 (721))

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