青木道彦『エリザベスⅠ世』講談社現代新書 pp.208-209

16世紀には修道院解散によって、国王が広大な土地を手に入れた。しかし、その大半は次々に売却されて主にジェントリの手に落ち、イングランド支配層の主導権は時代の変化に対応できなかった貴族から、勃興したジェントリに移っていったともいわれている。
 しかし、勃興したのは、時代の変化を有利に活用することができた一部のジェントリのみであったという指摘もある。
 <ジェントリ(一般)の勃興>を主張したものも、ジェントリにも経営に失敗して没落した者がいて、貴族でも有利な経営を行って成功した者があったことは認めているので、むしろ問題の核心は、当時はどんな経営が有利であったのかを具体的に整理することにあるように思われる。
 また、ヨーマンでも有利な経営で上位のジェントリになっていく者があったが、他方でこの時期に下位の農業労働者になった者も多かった。しかし、18世紀のいわゆる<農業革命>の時のように、ヨーマンという階層が消滅してしまうことはなかった。
 「有利な経営」とは、どんな経営であったのかを簡単に整理することはできないであろうが、16~17世紀は全ヨーロッパ的に概観してみても、市場向けの穀物生産が有利な事業となり得た時代であった。
 したがって東欧では、土地に縛りつけられた農奴の賦役労働を用いて行われる農場領主制が発展し、都市人口が増大して自国内の食糧生産では不足気味であった西欧諸国に多くの穀物輸出が行われていたのである。
 前に述べたように、イングランドでは大凶作に直面した時以外は、国内生産で国民の食料を確保していたので、穀物価格の上昇もあり、集約的な大農場による穀物生産は有利な事業となり得たのである。市場向けの資本主義的な穀物生産をどのように経営すれば有利であったか、それが問題であったものと思われる。

エリザベス一世 (講談社現代新書)

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