他方、十字軍が起こされた11世紀には、西地中海の情勢も変わっている。まず十字軍運動がはじまる70年ほど前に、ノルマン人のヴァイキングが地中海にまで及んで、1026年にシチリア島やイタリア半島南端部を奪い、植民を開始した事件が想起される。この部分が地中海の核心、俗にいえばヘソに当たるだけにイスラームにとっては打撃であったにちがいない。それから時代は降るが、第六次十字軍(1248-54)と第七次十字軍(1270)つまり最後の二回の十字軍は、フランス王のエジプトおよびチュニジアへの出兵の形をとった。このことは、十字軍としては気まぐれ的な事件として軽く扱われているが、実はフランスの地中海貿易への参加を意味し、マルセイユ港の復活につながったのである。
アジアの歴史―東西交渉からみた前近代の世界像 (岩波現代文庫)