高坂正堯『世界史の中から考える』新潮選書 pp.168-169

1860年代というのは異常な時代で、政治上の大変化が相ついだ。1865年に南北戦争が終わり、アメリカは真実に統一された。1866年にはイタリアが教皇領を残してほぼ統一された。通史ではイタリアの統一は1861年ということになっていて、それが間違いではないが、1866年までオーストリアはヴェネツィアなどをいぜんとして保有していた。それをオーストリアが失ったのは普墺戦争の結果なのである。同じ戦争の結果、プロシアはドイツの重要な部分を統一することに成功した。さらに、南部ドイツが統一されたのは、普仏戦争後の1871年である。一方、戦争に負けたオーストリアも1867年にオーストリア・ハンガリー二重帝国へと政治体制を変更し、近代化への歩みを開始した。しかし、それは結局は挫折することになる。こうしてイギリスとフランスという早くから近代国家の制度を整えていた国を別にして、その他すべての国が1860年代半ばに近代国家化へと本格的に歩み出したことになる。
 日本の明治維新は1868年だから、同じ時代である。19世紀初めに日本人のだれがそのようなことを予測しえたであろうか。日本はぎりぎり――最近流行した言葉で言えば、“ジャスト・イン・タイム” just in time ――間に合ったのであった。私は、それが明治の成功の重要な理由であった、と思う。

世界史の中から考える (新潮選書)

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