さてオランダに行った年の1618年にドイツで戦争が起こります。ボヘミヤの新教徒がファルツ選帝侯フリードリッヒを王に擁立してドイツ皇帝に反抗して兵をおこし、これがきっかけとなって三十年間ドイツは戦場となるのであります。これがドイツを荒廃におとしいれて近世国家となることをさまたげた三十年戦争であります。デカルトは戦いが起こったときいて翌1619年オランダを離れドイツに行って旧教軍の陣営に加わります。フランクフルトでドイツ皇帝フェルディナント2世の戴冠式を見物し、秋10月ドナウ川上流のウルムの町に着き、近くの村で冬ごもりの宿舎に入ります。このとき両軍対峙のまま戦闘休止の状態にあり、デカルトは宿舎でものを考え一種の精神的転機を経験するのであります。
デカルト (岩波新書)