薬師院仁志『社会主義の誤解を解く』光文社新書 p.123

 ともあれ、早くも1860年に議会権限の強化を実施したナポレオン3世は、1862年のロンドン万国博覧会に際して、アンリ・トラン(Henri Tolain)ら約八〇名の労働者代表を国費で派遣した。その折に英仏両国の熟練労働者が出会ったことが、1864年に――同じロンドンにおいて――第一インターナショナル(国際労働者協会)が結成される契機となったのである。先述のとおり、その創立宣言と暫定規約とを起草したのは、マルクスであった。しかし、だからと言って、英仏両国にマルクス主義が広まったわけではない。青銅彫職人のトランにしてもイギリスの労働組合員たちにしても、たしかに労働者であったにちがいないが、ともに上層熟練労働者に属していたのである。

社会主義の誤解を解く (光文社新書)

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