木畑洋一『二〇世紀の世界』岩波新書 p.124

 満州事変の成功に助長される形で起こったのが、イタリアによるエチオピア侵略である。すでに触れたように、1896年にイタリアはエチオピア征服をねらった末、アドワの戦いで敗れたという歴史的経験を持っていたが、1922年に「ローマ進軍」の結果政権を握ったファシスト党のムッソリーニは、エチオピアへの侵略欲を改めて燃え立たせ、35年10月、本格的侵略を開始した。その際、満州事変での日本の先例をムッソリーニは明確に意識していた。「アビシニア(エチオピアのこと)の全面征服」準備への決意を彼が参謀総長に告げた覚書のなかで、ムッソリーニは「われわれの行動がスピーディであればあるほど、外交面でもつれが生じる危険性は少なくなる。日本がやったと同じように、公式の宣戦布告をする必要は全くないし、いかなる場合にも常に作戦が純粋に防御的な性格のものであると強調する必要がある」と述べていたのである。

二〇世紀の歴史 (岩波新書)

関連記事s