薬師院仁志『社会主義の誤解を解く』光文社新書 pp.137-138

 マルクスが他界した1883年、ロンドンにおいて「新生活同志会(The Fellowship of the New Life)」なる社会主義団体が生まれた。しかしながら、この団体の趣意は、近代的な社会主義と言うより、むしろユートピア型の共産主義に近かった。なので、いわゆる現実主義者たちは、早くも翌年1月、新生活同志会から枝分かれする形で、新しい組織を結成することになる。この新組織は、古代ローマの名将ファビウス(Quintus Fabius Maximus)にあやかり、フェビアン協会(Fabian Society)と名づけられた。
 ちなみに、名将ファビウスとは、第二次ポエニ戦争(紀元前3世紀末頃)の際、カルタゴ軍との本格決戦を延ばし延ばしにし、粘り強い持久戦に持ち込んで勝利した人物である。フェビアン協会の方針もまた、ファビウスの戦法にあやかり、マルクス流の急変改革を延ばし延ばしにしながら、粘り強い持久戦の中で社会を改革するということであった。その態度は、浸透主義や漸進主義、あるいは――革命主義との対比として――改良主義と称されるものである。

社会主義の誤解を解く (光文社新書)

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