地理からみれば、チベットは一本のトンネルに似ている。一方の出口は崑崙山脈の西端と、カシミールのカラコルム山脈のあいだで、東トルキスタンのタリム盆地の西南辺のホタンあたりにひらいている。もう一方の出口は、黄河の水源地から青海の西寧あたりにひらいている。そしてトンネルの内部では、チベットの南境をかぎるヒマラヤ山脈にそって、ツァンポ川が延々と東に流れ、その渓谷は気候が温和で農耕に適している。この農耕地帯の北側に平行して、湖の多い草原地帯がずっと東西にのびているが、雪が多いので農耕には適せず、むかしから遊牧民の住地になっている。この遊牧地帯の両端が、さっきいったホタンと西寧なのである。遊牧地帯のさらに北、崑崙山脈よりの広大なチャンタン高原はきわめて乾燥していて水がないので、人間はおろか野獣も住めぬところである。これがトンネルの北壁をなしているわけである。
紫禁城の栄光―明・清全史 (講談社学術文庫)