鈴木董編『パクス・イスラミカの世紀』講談社現代新書 pp.223-224

 『スジャラ・ムラユ』は、マラッカ王国の王たちの歴史を描いたものであるが、マレー人の世界観で書かれた彼らの歴史である。マラッカ建国の歴史は、その祖たるマケドニアのアレクサンドロス大王のインド遠征から書きおこされる。いわゆる「アレキサンダー・ロマンス」は中世ヨーロッパにおいて流布された空想的な伝説であるが、その伝説はヨーロッパのみならずイスラーム世界にまでおよび、世界的規模でさまざまな伝説がつくられていった。イスラーム世界では、彼はあるときはイスラームの戦士として、あるときは国の始祖として描かれる。
 マラッカ王国も、アレクサンドロス大王からその歴史を書きおこすのである。その子孫のさまざまな冒険、ガラスの箱に入って海底の王国を訪れ、そこで王女と結婚するという龍宮城をほうふつさせる物語、さまざまな奇跡、海底の国からふたたび地上に戻った子孫たちによるパレンバン王家の物語から、ついにマラッカの建国に至るさまざまな物語、そしてマラッカ王国が最終的に1511年にポルトガルによって崩壊するまでの物語が語られる。

パクス・イスラミカの世紀 (講談社現代新書―新書イスラームの世界史)
 

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