岡田晴恵『感染症は世界史を動かす』ちくま新書 p.128

 梅毒の広がった16世紀に、キリスト教世界では宗教改革が起こった。マルティン・ルター(1483~1546)は、神の恩寵は人々が神を信じ、質素で誠実に生きれば与えられると説いた。免罪符を非難し、一夫一婦制の厳守から売春に反対した。
 清教徒(ピューリタン)は、さらに厳しく性行動を慎んだ。梅毒の蔓延を防ぐには売春を抑制し、夫婦制度を強化して、人々の中に純潔教育を施すことが必要とされたのだった。イギリスでピューリタンが発祥したのは、ヨーロッパでの梅毒蔓延の結果であるといわれる(W・H・マクニール『疫病と世界史』 佐々木昭夫訳 新潮社)。
 やがてピューリタンは、アメリカへの植民に船出することになる。コロンブスの発見以来、ヨーロッパ人は搾取と殺戮の果てに黄金と香辛料を新大陸から持ち帰った。しかし、その報いに彼らの血流にのって梅毒のバクテリア、スピロヘータがヨーロッパへめぐっていったのであった。そして、その恐怖から生まれたピューリタンが再度船に乗って、スピロヘータの故国に移住していく。病原体とともに歴史もめぐっていく。

感染症は世界史を動かす (ちくま新書)

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