牟田口義郎『物語 中東の歴史』中公新書 p.187

 バフリのもうひとつの特徴は完全にサーリフの私兵だったことである。約一万といわれる大部隊を個人の力で養うには、膨大な財力が必要だが、その点サーリフは恵まれていた。ローマ時代以来ヨーロッパ人がのどから手が出るほど欲しがるスパイスは、インドおよび南の島々で産するが、当時のスパイス・ルートは紅海からエジプトを経由、アレクサンドリアの港からヨーロッパへ、ヴェネツィア、ジェノヴァの商人たちによって運ばれていた。サーリフのふところは、その通過税でたっぷりふくらんでいた。当時のエジプトは、ヨーロッパを含む地中海沿岸諸国のうち、もっとも裕福ではなかったか。

物語 中東の歴史―オリエント5000年の光芒 (中公新書)

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