イスラーム世界における主人と奴隷との関係は、アメリカにおけるそれとはまったくちがう。『千一夜物語』を見れば、才色兼備の女奴隷が神学の大先生をやりこめる話をはじめ、さまざまな奴隷の話が語られているが、アメリカの場合に比べてはるかに開放的なところが特徴だ。主人と奴隷との関係は従属関係というよりは血縁関係に近かった。マムルークたちは主人の名をもらって自分の姓にするのがふつうだし、主人の子どもたちと同じ教育を受けた。また、いちばんすぐれたマムルークは家長として主人の後を継ぐことも多かった。当然彼らも不動の忠義をもって主人に仕え、主人のために戦うことになる。
物語 中東の歴史―オリエント5000年の光芒 (中公新書)