笈川博一『物語エルサレムの歴史』中公新書 p.32

 どうもここには二つのバージョンがあるようだ。一つはダビデがいきなり油を注がれて王になる話であり、もう一つはダビデがごく子供の時に始まるものであるらしい。後者のバージョンでのダビデの最初のエピソードはペリシテ人の豪傑、ゴリアテとの一騎打ちである。彼は、放牧している羊を襲うライオンやクマを撃退するのに使い慣れた石投げ紐で石を飛ばして勝利した。湯上りに左肩にタオルを掛けているように見えるミケランジェロのダビデ像がフィレンツェにあるが、この“タオル”が石投げ紐である。皮肉なことに1987年に始まったパレスチナ人の対イスラエル闘争、第一次インティファーダではこの石投げ紐でイスラエル軍の戦車に石を投げるパレスチナの少年たちが有名になった。ここでは強力なイスラエルがペリシテ人の英雄、ゴリアテになぞらえられたのである。

物語 エルサレムの歴史―旧約聖書以前からパレスチナ和平まで (中公新書)

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