戦国時代は、中国史上最初の、高度成長の時代だった。人口は急増し、春秋時代の四倍にあたる二千万になった。この人口規模は、元禄時代の日本の人口や、今日の台湾に匹敵する。商業が発達し、都市が繁栄し、思想や文芸も活発化した。
人口が四倍に急増した主因は、鉄器の普及である。鉄の原料は、銅鉱石よりもずっと豊富である。青銅器と違い、鉄器は大量生産が可能だった。農民は鉄製農具を使って農地を広げ、諸侯は鉄製武器で大規模な軍隊をつくった。軍隊は歩兵中心となり、戦争の規模は十倍化した。その結果、春秋時代まで存在した多数の都市国家は、少数の大国に吸収合併され、「領土国家」が生まれた。そして、「戦国の七雄」と呼ばれた七大強国が、天下統一を目指して、覇を競うようになった。
貝と羊の中国人 (新潮新書)